北極の氷


 今年の8月、北極の氷の融解速度はこれまでで最速だった。その結果、氷の面積は最小を記録した2007年よりわずかに大きい程度しか残らなかったという。氷は既に今週から冬に向けて凍結を始めたが、8月の急速な消失は、長期的には年間の氷量が大幅に減少することを示唆している。

 メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターのジョセフィーノ・コミソ氏は、「今年の年間氷量は2005年や2006年と同程度になると予測していたが、8月に融解速度が急激に速くなったので、2007年と同じ程度まで減少した」と話している。昨年の夏の終わり頃に氷は平均より38%減少し、それ以前の最小の年間氷量よりさらに27%少なくなっていた。

 地球温暖化の影響で気温が上昇すると北極の氷が薄くなり、特に海水温度が上昇すると氷は融解しやすくなる。

 最も古い氷は数メートルの厚さがあり、長年にわたって成長してきたものだ。コミソ氏によると、このような氷の塊のかなりの部分が北極海から温かい大西洋へと漂流して融解したという。

 夏の間に漂流または融解した厚い氷に代わって、ひと冬の間に薄い氷が形成される。この薄い氷が次の年の夏にはさらに速い速度で融解する、とコミソ氏は説明する。これまで北極海の海面は氷で覆われていたために太陽の光や熱の大部分は遮断されてきた。しかし今では、氷のなくなった海面が太陽エネルギーを吸収するようになり、その結果、海水温度の上昇が加速されるのだ。

 現地の研究者によると、北極の氷は上部よりも底部の方から速く融解しているという。この現象は、北極の海水温度の上昇が夏の氷の減少に影響する重要な要因となっていることを示している。

 研究に使われた衛星データでは2次元の氷量のみを追跡しているため、底部の減少については氷が完全に融解するまで観測できない。この底部から速く融解する現象が8月の急速な減少の原因にもなっていた可能性がある。

 コロラド大学ボルダー校に本拠を置く米国雪氷データセンター(NSIDC)の上級研究科学者、マーク・シェリーズ氏も北極海の氷を観測している一人だ。「平年は8月には日照が減少するため氷の融解速度は遅くなる。2007年もそうだった。しかし今年の夏は8月中も氷の融解の勢いは強いままだった。原因の1つは、シベリアの北の海で温暖な条件を作り出した大気の循環パターンにある」と同氏はメールで回答を寄せた。

 NSIDCのWebサイトに掲載された最新情報によると、シェリーズ氏のチームでは、今年の春と初夏の氷の消失はボーフォート海(北極海の一部)に集中しているが、8月の融解はシベリア北東部のチュクチ海と東シベリア海で最大だったことを突き止めた。「チュクチ海と東シベリア海における氷の消失速度は、2007年よりも平均で1日当たり1万4000平方キロ速かった」と同レポートでは述べている。
(Yahoo!ニュースより)
(ナショナル ジオグラフィック サイト)http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/index.shtml