どん底から一転・・・

 引きこもりに鬱(うつ)、自殺未遂…。20歳でどん底を経験しながら、あるきっかけでバンドを結成し、ネットを通じて欧米で人気に火が付いた女性がいる。黒い衣装に身を包んだゴシック・ロックバンド「ガガーリング」のボーカル、マイムさんだ。黒ずくめの服で浮いていた孤独な女の子の歌声が、欧米のビジュアル系バンドブームに乗って海を越えた。(桜井紀雄)

 受験失敗が引き金だった。地元、群馬県の名門私立高の英語科に入ったが、「とにかく英語を勉強しなさい」と親に言われれば言われるほど、英語嫌いになり、希望大学に落ちた。

 「自分は何て駄目な人間なんだ。親の期待を裏切った」。自分を責めた。

 黒服に十字架やドクロをあしらった服装が好きで、その姿で街を歩いては「浮いている」自分に気付いた。部屋にこもり、カーテンを開ける気力も失った。病院では重度の鬱と診断された。2度、自殺を図った。

 21歳のある日、友人が東京ドームでのローリング・ストーンズのコンサートに連れ出した。おやじがステージを駆け回って熱唱し、6万人の観客が熱狂していた。「この曲、聞いたことある」。失っていた楽しさがこみ上げてきた。


 「こんなに人を感動させる。自分もやる」。そう決めると、無謀な行動に出た。バンドのメンバーを探そうと、カラオケボックスで自分の歌声を録音したデモテープを持ってライブハウスを巡った。

 「歌いたいんです」。一人のギタリストにテープを突き付けた。元リンドバーグのドラム、チェリーさんとともに新バンドを作ろうと、たまたまボーカルを探していたモトさんだった。「この子には伝えたいものがある」と感じた。ガガーリングが生まれた。

 鬱を引きずっていたが、プロデューサーは「悩んでいる若者や鬱の人は大勢いる。それを素直に詞にしよう」と告げた。知らずに自分が着ていた黒を強調したゴシック・ファッションも前面に打ち出した。

 欧米では日本のビジュアル系バンドのブームが起きていた。ガガーリングは昨年2月、英語圏最大の音楽サイト、マイスペースに曲を投稿したところ、いきなり試聴数1位に。「最高!」「私の国に来て」と欧米からのメールが引きも切らない。


 引きこもりの体験は本としても出版。曲はカナダのミュージックビデオ大賞にノミネートされた。7月には米国のアニメエキスポに招かれ、今春にはモスクワ公演も予定している。「欧米でもネットの世界にこもり、人とのかかわりをなくした若者は多い」。それだけに自分の経験を一人でも多くに伝えたい。

 マイムさんは言う。「ちょっとでも変わりたい心があれば、外に一歩踏み出して。どこにきっかけが落ちているか分からないから。一つの行動が未来を大きく変える。心が動いた瞬間を逃さないで」
(MSN)