「シリアスゲーム」

 教育や医療問題などさまざまな社会問題の解決にゲームを役立てる「シリアスゲーム」(SG)の考えが広がり始めている。もともと米国で生まれたものだが、日本でもSGを専門に開発するメーカーが登場。学校の授業で生徒にゲームをプレーさせ、教育効果を検証する研究も進んでいる。(森本昌彦)

≪危険から脱出≫

 超高層ビルで仕事中、マグニチュード7以上の大地震が起こったら、あなたはどうするか−。

 平成20年12月20日にSGラボ(東京都渋谷区)が発売したパソコンソフト「D−Moment 〜巨大地震編〜」は、そんな想定でゲームが進行する。地震でエレベーターが停止した際などに、どうすべきかを選択肢の中から選び、地震発生直後の危険から脱出を図る。

 「余震」「災害伝言ダイヤル」など地震が起きたときに知っておく必要があるキーワードは青字で画面に表示され、クリックすると詳しい情報を知ることができる。知識だけでなく、「心肺蘇生(そせい)法」の方法なども同様に画面表示され、ゲームを楽しみながら地震についての理解が深められる工夫が施されている。

 同社は18年、学習研究社(品川区)とスクウェア・エニックス・ホールディングス(渋谷区)の合弁企業として設立された。SG専業メーカーとして、これまで企業をPRしたり、自治体の取り組みを伝えるゲームなどを作成。D−Momentは、一般ユーザー向けとしては初のSGとなる。

 ≪医療、健康もテーマ≫

 国内ではまだ耳慣れないSGという用語。日本で普及に取り組んでいるシリアスゲームジャパンによると、米国で2002年ごろに使われ始めたという。

 米陸軍による入隊者募集を目的としたゲームや、非営利財団が支援して制作された医療や健康をテーマにしたゲームなどが次々に登場。SGに関連した国際会議や研究会も開かれ、そのブームは欧州にも波及している。

 一方、日本の状況について、シリアスゲームジャパン代表の藤本徹さん(35)は「SGの土壌はあるが、海外のSGが普及しているというよりも、学習をテーマにしたエンターテインメントが進んでいる」と指摘。ニンテンドーDSでさまざまな学習ソフトがヒットしていることを典型例として挙げる。

 ≪上がる学習意欲≫

 東大大学院情報学環の馬場章教授(コンテンツ創造科学)の研究グループはSGの学習効果に着眼し、詫間電波工業高専香川県三豊市)の授業にSGを導入、その効果を検証する研究を17年度から実施している。

 同高専の1、2年生の日本史と世界史の授業で、コーエー横浜市)の海洋冒険ロールプレーイングゲーム「大航海時代Online」を使用。「通常の授業のみ受ける」「ゲームだけプレー」「課題を与えてゲームをプレーする」という3つのグループに生徒を分け、歴史に対する興味、知識の定着度、歴史認識などがどうなるかについて測定している。

 研究は22年度までの予定だが、現段階で、ゲームをプレーしたグループで学習意欲が最も上がり、課題をこなしながらゲームをプレーしたグループが最も知識定着度が高くなるなど、一定の教育効果があることが分かったという。

 「今後、さまざまなジャンルでSGの開発が進み、もっと生活の中に入ってくると思う」と馬場教授。普及に向けた課題としては、ゲームを教育などの分野に導入する際の抵抗感を挙げ、「ゲームが単なる娯楽でなく、いろいろな可能性を持っていることを研究を通じて証明したい」と話している。
(YAHOO!JAPAN)