「好きなことを貫けば、夢もかなう」


 世界30カ国以上で上演され、米ニューヨークでもロングラン公演中の人気パフォーマンス「STOMP」。そのメーンキャスト、ビン・ビッチ役をつとめてきたのが日本人の宮本やこだ。内容を新たに練り直した来日公演「STOMP The New World」でも、エネルギッシュなパフォーマンスを披露する。

 

「毎回が一生に一度の時間」

 「STOMP」は1991年、英国のストリートで誕生した。バケツやドラム缶、デッキブラシなど身の回りの物を使い、音とリズムを刻むシンプルなショーだ。ニューヨークのオフ・ブロードウェーでは94年に開幕。宮本は2002年から今年1月まで出演を続けた。

 「8年間続けられたのは、お客さまはもちろん、私にとっても毎回が一生に一度の時間だから。細かい決まりがないので、パフォーマー同士のその時々のコミュニケーションが作品の出来に反映されるのも新鮮」と話す。

 STOMPには、細かいストーリーやせりふはない。鍛え抜かれた肉体と技術で表現するさまざまなリズムが躍動感を生み、客席を巻き込んでいく。

 「STOMPを観(み)るのに、ルールなんてないんです。音を出してもいい。お客さまが参加して一緒に楽しむことで、150%のパワーが生まれるショーなんです」

 抜群のリズム感と身体能力を持つ宮本が、エンターテインメントの世界に興味をもったきっかけは、小学生のときに出合った和太鼓だった。

 「ずーんと、重低音でおなかの底まで響く音を聞いたとき、『わー、この音好きだ』と思ったのです。その好きがずっと続いています」

 大学入学後は、ストリートダンスやタップダンスにのめり込む。「リズム感がいいからニューヨークで本格的にタップをやったら」とすすめられ、1999年に渡米した。

 「タップはステッキを持った優雅なダンスをイメージしていたのですが、セビアン・グローバー(世界的タップ・ダンサー)を見て、スタイルなんてないんだと知った。既製の音楽に合わせて踊ることに違和感を持ち始めていて、彼のように自分の感覚でリズムを刻むダンスがしたいと思ったんです」

人の5倍レッスン

 レッスンに通い半年後には、タップ・カンパニーの主要キャストに合格。大学も退学し、2000年には、和太鼓とタップを組み合わせたパフォーマンス・グループ「鼓舞(こぶ)」も設立した。そのころ、出合ったのが「STOMP」だった。

 「何もわからないまま、オーディションに行ったので、こうなったら楽しもうと、思いっきりやったら、『面白いから来なさい』と。合格が決まってから初めて名前を聞かれて、履歴書を持っていったら、『ジャパニーズだったのか!?』って驚かれた。誰にでも可能性はある。好きなことをとことん貫けば、夢もかなうんです」

 ただし、周囲はブロードウェーの舞台を目指し、幼いころからレッスンを続けてきた人ばかり。18歳でダンスを始めた宮本はスロー・スターターだ。

 「いえ、ビハインド・スターターです。相手が3歳から始めているなら、自分は5倍レッスンすれば何年か後に追いつける。スタートが遅かったという自覚が助けになったと思います」

 現在は自身が率いる「鼓舞」の創作活動に力を入れている。

 「メンバーの能力をどう引き出し、作品を色づけするか、出演者とは視点が変わって面白い。日本人である自分ならではの、オリジナリティーあるショーを世界中で上演してきたい」と話している。(文:田窪桜子/撮影:三尾郁恵/SANKEI EXPRESS)

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 ■みやもと・やこ 8歳で和太鼓に出合い、慶応大学理工学部在学中、タップダンスやヒップホップダンスを始める。1999年、ダンスを学ぶために渡米。2000年、和太鼓とタップを融合したリズムカンパニー「鼓舞」設立。02年、オフ・ブロードウェーミュージカル「STOMP」のオーディションに日本人として初めて合格し、今年1月まで出演した。

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 【ガイド】

 「STOMP The New World」

 6月1日〜6日、東京・水道橋のJCB HALL

MSN産経ニュースhttp://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/100531/tnr1005311856008-n1.htm