インドが中国を超える日

 前回、日本は中国と対抗するために、ASEAN東南アジア諸国連合)との関係、特に経済関係を深めること、また同時に中国に警戒感を持っているロシアとの関係を深めるように努力すべきであると書いた。その後、ロシアのメドベージェフ大統領は日ロ間の懸案である北方領土を訪問すると発表し、日本側の神経を逆なでしたが、結局は今回は取りやめということになって、日本は胸をなで下ろした格好だ。

 ロシアのメッセージは、北方領土問題にこだわることで日ロ間の協力関係が進まないなら、ロシアは中国と手を組むぞということだったのかもしれない。しかしロシアは中国を警戒している。あるロシア人はこんな冗談を教えてくれた。「ある日のテレビニュース。『バルト3国の1つ、ラトビアと中国の国境において紛争が勃発した』」。つまりロシアは中国に飲み込まれてしまうというブラックジョークである。

 確かに人口が減りつつあるロシアと、その10倍の人口を擁し、さらに人口が増えている中国を考えれば、国力の差は歴然としている。しかも中国のGDP国内総生産)はロシアの4倍程度である。さらに中国が「世界の工場」と呼ばれて工業生産を伸ばしているのに比べると、ロシア経済は原油天然ガスの相場に大きく左右される構造になっている。メドベージェフ大統領はこうした資源異存の構造から何とか抜けだそうとして、海外企業の誘致に熱心に取り組んでいるが、なかなか思うようには進んでいない。

●インドが経済成長において中国を凌駕する

 北のロシアと並んで日本が注目しなければならない国は南のインドだろう。英エコノミストの最新号(10月2日号)がインド特集を組んでいる。同誌は何度かインド特集を組んできたが、これまではどちらかといえば懐疑的あるいは否定的な色が濃かった。それらに比べると、今回は虎が疾走する写真を表紙にするなど楽観的なトーンである。

 同誌の記事の中から、ポイントを紹介する。

 →http://www.economist.com/node/17145035?story_id=17145035

 インドの2010年度の成長率は8.5%以上に達すると予測されている。また投資銀行モルガン・スタンレーのアナリストによると、3年から5年以内にインドの成長率が中国の成長率を上回るという。中国は以前のような二ケタ成長ではなく8%成長に甘んじる一方、インドは数年間は9〜10%成長の時代が続くというのである。これからの20〜25年間は世界の主要経済大国の中で最も成長する国になるだろうと予測している。

 インドが経済成長において中国を凌駕(りょうが)するという根拠はいくつかある。第1は人口構成だ。モルガン・スタンレーのアナリストは言う。「高齢化する社会は労働力を必要とする。若い国には労働力がある」。これまでのアジアの力強い経済成長も労働年齢の人口が増えてきたことによるものである。そして今度はインドの番だ。労働人口に対する非労働人口の割合は、1995年には69%だったが、今年は56%になる。そしてインドの労働人口は2020年までに1億3600万人増えるが、中国ではわずか2300万人しか増えない。

 第2は経済改革の成果だ。1990年代初めの経済改革が経済力の爆発的強化につながっている。関税は大きく下がり、官僚統制は脇に追いやられた。多くの企業が世界企業との競争に打ち勝っている。その結果、輸出も急増した。インド企業の中には世界的な大企業になったものもある。アルセロール・ミッタルは世界最大の鉄鋼会社だし、タタ・モーターズジャガーとランドローバーという高級自動車メーカーを傘下に収めている。中国経済の成長は国家管理によるところが大きい。それに対して、インド経済は4500万人の起業家が引っ張っていると、インド商工会議所連合のアミット・ミトラ会長は言う。

●日本にとってのインドの重要性

 記事のほんの一部を紹介したが、インドに進出している日本企業は中国に進出している企業に比べると圧倒的に少ない。昔から進出している企業ではスズキが有名だが、それはむしろ例外的存在と言える。日本の企業そして政府が今後インドをどれだけ意識し、深い関係を結ぶことができるのかということが、日本の将来を決める1つの大きな要素になることは間違いない。

 何と言っても、インドはインド洋に面する大国であり、そしてインド洋は日本の生命線であるシーレーンが通っている海でもあるからだ。そして中国海軍の膨張に対抗するかのようにインド海軍は原子力潜水艦を就航させた。「インド洋で他国に勝手な真似をさせるわけにはいかない」と海軍首脳は語っている。感のいいリーダーなら、日本にとってのインドの重要性を感じると思うが、果たして菅首相はどうだろうか。【藤田正美,Business Media 誠】

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Business Media 誠


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