トイレトレーニング

 「恥ずかしい」「からかわれる」などの理由で、小学校のトイレでウンチをすることに抵抗感のある児童が多いといわれる。しかし、排便は健康的な生活習慣の基本で、体調管理にもつながる。「おむつ外しに次ぐ第2のトイレトレーニングが必要」と訴える、トイレ環境コンサルタントで、アクトウェア研究所(東京都武蔵野市)代表、村上八千世さんに、子供のトイレ教育について聞いた。(柳原一哉)

 主に小学生を対象に、排便についてやさしく解説した『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』(ほるぷ出版)など、絵本の著作が多い村上さん。この10年で首都圏の小学校などに100回以上も「出前教室」を行い、トイレ教育に取り組んできた第一人者だ。

 村上さんが気にかけるのが、学校でウンチをするのを嫌がる子が多いことだ。中には我慢し切れず粗相(そそう)をしてしまったり、6年間で1度も学校のトイレでウンチをしなかったという子供もおり、「排便をめぐって児童に大きなストレスがあるようだ」と心配する。

 便器などを扱うTOTOが、約1000人の児童を対象に行ったネット調査が、この心配を裏付ける。4割近くが「学校で大便をしない」「できるだけしない」と答え、学年が上がるほどその割合が高かった。

 理由として「恥ずかしい」「学校ではしたくない」などが上位を占め、特に男子では「扉のあるトイレに入ると友人にからかわれる」という回答が目立っている。


 子供たちにとってトイレは、学校という公的空間の中では異質な場所かもしれない。学校で排便を避ける傾向は以前からあった。だが、村上さんは「親は、おむつ外しのトイレトレーニングには一生懸命だが、その後は排便に無関心になる傾向がある」と指摘。そして「生活そのものを反映するアウトプット(結果)としての排便の意味を、きちんと教える第2のトイレトレーニングが必要だ」と訴える。

 ウンチは、食事内容や生活習慣がそのまま影響する。風邪や食べ過ぎなどにより消化不良を起こすと下痢になり、野菜不足や運動不足だと便秘になりやすい。「排便は文字どおり身体からの“便り”だ」と村上さん。

 「この表を親子で共有しておき、ふだんの会話の中で自然に排便の話ができれば、親は食事に野菜を増やすなどの工夫をしやすくなる。子供も便の状態を見ることを通じて自分自身の体調を自己管理できるようになる」と指摘。具体的には「排便の日記をつけて客観視できるようにするといい」と提案する。

 この提案を受けて、横浜市保土ケ谷区の市立仏向小学校など3校は今年度までの研究授業で、村上さんが制作した分類表や絵本を用い、児童が毎日の排便などをカードに記録するなどして生活習慣全般を振り返る指導を実施した。

 この授業の前後で子供たちの様子を調べたところ「野菜を好き嫌いなく食べるようになった」「排便してから登校するようになった」などの割合が増える成果があったという。

 村上さんは「排便を『恥ずかしい』と考えがちなのは、排泄(はいせつ)音やにおいを『異物』ととらえるマイナスイメージのためで、最近では過度な清潔志向もその背景にあるからでは」と分析。「排泄は生活を映す鏡であるという意味を教えていくことにより、子供たちの『生きる力』を育てることにつながる」と力説している。

著作の絵本を手に「第2のトイレトレーニングを」を呼びかける村上八千世さん=東京・吉祥寺
(MSN)