「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」

 「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と言い放った福沢諭吉が、今の政界を見たらなんと言うだろうか。

 首相のイスには、小泉純一郎氏から4代続けて世襲議員が座っている。うち3人は祖父か父が首相経験者だ。閣僚も「大正13年から一族が議席をいただいている」森英介法相をはじめ小渕優子少子化担当相ら世襲議員が圧倒的多数で、「非世襲」は与謝野馨財務相らごく少数。民主党に目を転じても小沢一郎代表、鳩山由紀夫幹事長と党の大黒柱が世襲議員だ。

 米国でも韓国でも世襲議員は存在する。だが、これほど国会議員の世襲制が根を張っているのは、日本くらいなものだ。

 ようやく、というべきだろう。民主党が次期衆院選から国会議員の地盤をその親族が引き継ぐ世襲候補の立候補を制限する方針を決めた。民主党案は、国会議員の子や配偶者が同じ選挙区から連続して立候補するのを党の内規で禁止しようというもので、次期衆院選政権公約マニフェスト)に盛り込む。資金管理団体などの政治団体を親族に引き継がせないための政治資金規正法改正案も国会に提出するという。ただ、親族の範囲は調整中で、現職は除かれる。

 この案に、世襲議員の多くは猛反発している。鳩山一郎元首相から数えて3代目の鳩山邦夫総務相は「非常に中途半端な内容だ。自分たちはいいけど、後はダメだというのは愚の骨頂だ」とこき下ろす。さらには、「小沢一郎さんも鳩山由紀夫さんも鳩山邦夫も出るなよ、とやれば徹底している」と挑発した。

 「父や母が議員だと立候補が著しく制限されれば、法の下の平等をうたう憲法に違反するはずだ」という世襲議員の言い分にも一理ある。しっかりした後援会を引き継いでいるからこそ、一部の例外を除いてカネ集めに四苦八苦しなくて済んでいる面がある。おおむね仕事ぶりもまじめだ。第一、国会で石を投げれば2世、3世議員に当たるのは「世襲ブランド」を好む有権者が少なくないからだ。

 それでも、今の政界は門閥が幅をきかせ過ぎている。最も大きな理由は、政界への参入障壁が高すぎることにある。世襲議員しか首相になれないようでは、政界への人材供給はますます先細りになるだろう。「ポスト麻生」候補が見当たらないのも「世襲」の弊害が影を落としている。この問題の答えは簡単に出そうにないが、小紙では「世襲論議」の行方をしっかりと追いかけていきたい。
(産経ニュース 政治部長 乾正人、MSN)