四国で水取り合戦

 今年も日本一有名な“渇水ダム”が空っぽの危機を迎えている。四国の水がめ「早明浦(さめうら)ダム」(高知)の貯水率が少雨で約40%程度まで下がり、香川35%、徳島15.7%の第2次取水制限が14日、始まった。今後の降雨の見通しも立たず、21日にも第3次取水制限に入るとみられる。同ダムの渇水状況は毎年のように報じられているが、その裏で香川県Vs3県の“冷戦”が演じられていることは意外に知られていない。

 高知、徳島両県を流れる吉野川の上流に設置された早明浦ダムは昨年9月、2005年夏以来3年ぶり3度目の「貯水率0%」を記録した。だが、今年の取水制限開始は史上2番目の早さで、昨年を上回る渇水が危惧されている。


 そんななか、徳島県の関係者の間では、水不足の“被害者”として毎年メディアに取り上げられる香川県に対し、不満の声が噴出している。


 「讃岐うどんブームが続く香川は、県民1人あたりの水使用量が高い。にもかかわらず、吉野川が県外を流れているため、『利水』だけで『治水』にはかかわっていない。早明浦ダムの建設費も、自県の利水分しか負担しておらず、他の3県と比べて貢献度が低い。なのに毎年、ダム渇水の“最大の被害者”として注目されるのはいかがなものでしょうか」


 徳島以外の2県(高知、愛媛)の視線も厳しいという。


 「ダムの用地を提供した高知は大川村の集落を沈め、同じく水不足に悩む愛媛も水路以外に発電分や維持費を負担するなど資金協力してきた。しかし香川は、水が供給されるようになった途端、それまで利用していた県内のため池を埋めてしまった。後先考えずに早明浦ダムの貯水に依存しすぎた経緯が、3県の反感を呼んでいる」(同)


 これに対し、香川県水資源対策課は、こう反論する。


 「ダム建設費の利水分については、徳島に次ぐ金額を負担している。吉野川が県内を流れていないので治水分の負担はありませんが、その大半は国が負担しており、他県の批判はあたらない」


 ため池を埋め立てたことや、水不足の背景に“うどんブーム”があるとの指摘については、「1984年以降、ため池をつぶす際は同量の水源を確保する条例を施行している。うどんブームによる水使用量の増加は、われわれの予測の範囲内。井戸水を利用するなど、自助努力している店舗も多い」と語気を強める。


 空っぽになるたび、発電用水の緊急放流でしのいできた同ダムだが、今年もダムが干上がれば、ダム底に沈んでいる大川村の廃虚や車が顔を出す。その光景は新聞やテレビで全国に報じられるだろうが、裏では四国4県の“水取り合戦”が繰り広げられているのだ。
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