アポロ11号、知られざる5つの挿話


 アポロ11号の月面着陸について、当時は数え切れない人がテレビ中継にくぎ付けになり、40年が過ぎた現在でも多くの人がオンライン動画などでその模様を目にしているだろう。アポロにまつわるエピソードもそのほとんどが既に“常識”となっているが、中にはあまり知られていない事実もまだ残っている。今回はそのうちの5つを紹介しよう。

1. オルドリンは秘密の聖餐(せいさん)を行った

 パイロットの1人であるアメリカ人宇宙飛行士エドウィン・“バズ”・オルドリンはアポロ11号の月着陸船から月面に出る前、キリスト教式の聖餐を行っていた。オルドリンは昔から通っていた教会の牧師に頼んで、聖なる丸パンや少量のワインなど聖餐用具を準備してもらっていたのだ。ニール・アームストロング船長は「敬意を示すようにじっと見つめていた。私には何も言わなかった」とオルドリンは振り返る。

 当時、無神論者のマダリン・マーレイ・オーヘイルが、「国家公務員は公の場で宗教的な祈りを捧げるべきではない」とNASAに対して訴訟を起こしていた。そのため、オルドリンはこの行為を秘密にしていたという。

2. 月面には記念品が残された

 アームストロングとオルドリンは、船外活動用の生命維持装置やアメリカ国旗、着陸船の下降段などを残して月面を離れたが、実はそれ以外にも心を込めた記念品を置いてきた。例えば次のようなものである。

・打ち上げられることなくミッション終了となったアポロ1号の破片

 アポロ1号は1967年、訓練中に炎上、司令船は炎に飲み込まれ、3人のアメリカ人宇宙飛行士が命を落とした。

ウラジーミル・コマロフとユーリイ・ガガーリンを追悼する記念メダル

 ともにソ連の宇宙飛行士。有人宇宙飛行のパイオニアで、飛行中の事故でそれぞれ1967年と1968年に亡くなっている。

・世界の指導者73名から寄せられた親善メッセージ

・平和の象徴であるオリーブの枝を模した金製の小さな飾りピン

3. アメリカ大統領は大惨事に備えてスピーチを用意させていた

 当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンのスピーチライターを務めていたウィリアム・サファイアは、月面から飛び立った宇宙飛行士たちが軌道上の司令船とのドッキングに失敗し地球に帰還できなくなった場合に備えてスピーチを用意していた。

 その一節を紹介すると、「勇敢な二人の男、ニール・アームストロングエドウィン・オルドリンは帰還の望みが絶たれたことを理解しているでしょう。しかし同時に、自らの犠牲が人類に希望をもたらすことも理解しているはずです」。

4. 帰還できるか、忘れ去られるか、運命を分けたのは1本のペンだった?

 月面での作業中、宇宙飛行士の1人がサーキットブレーカーに衝撃を与えてしまい、部品が緩んでしまった。この装置が動作しないと上昇段のエンジンが点火せず、軌道上の指令船に戻れなくなってしまう。

 このときオルドリンは、フェルトペンを使ってブレーカーを元の場所に押し込んだという。

5. アメリカ国旗は衝撃で倒れた

 アポロ11号の宇宙飛行士たちが月から飛び立つとき、舞い上がるちりや破片の衝撃により、月面に立てられた最初のアメリカ国旗は倒れてしまった。

出典:バズ・オルドリン『Magnificent Desolation(壮大なる荒地)』、アラン・シェパード/ディーク・スレイトン『Moon Shot(ムーン・ショット)』
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