改正育児・介護休業法

■不況…「時短勤務を言い出せない」

 出産を機に女性が解雇される「産休切り」が増えている。仕事と家庭の両立を政策に掲げる民主党政権が誕生し、来年6月には子供を持つ女性により配慮した改正育児・介護休業法が施行されるが、改革は本当に進むのか。「とても時短勤務を言い出せない」「社員の意識も変えないと」。不況のなか、改正法施行を前に女性と中小企業には、期待より不安の声が高まっている。(今泉有美子


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 ■泣く泣く退職


 「会社の業績が悪化した。復職はもう少し待ってほしい」


 1歳の子供を持つ横浜市の小林礼子さん(35)=(仮名)=は今年3月、勤務先からの電話に言葉を失った。小林さんはソフトウエア開発企業の経理担当者として約5年間勤務。2年前に出産のため産前産後休業(産休)を取得した。


 出産後も育児休業(育休)を継続し、約10倍の競争率を突破して4月からの子供の保育園入園が決まったところだった。それなのに自宅待機とは−。


 保育園は母親が働いていることが入園の条件。休職が続けば、入園をあきらめざるを得ない。小林さんは泣く泣く退職。現在はアルバイトをしながら子供を保育園に通わせている。


 ■1日6時間OK


 小林さんのような女性は増えている。


 「産休後に辞めることを勧められた」「育休から復職させてくれない」。こうした相談が全国の労働局に殺到。厚生労働省によると、平成16年度に521件だった相談件数は20年度に2・5倍に跳ね上がった。


 法改正はこうした女性の悩みを解消するのが狙いだ。企業はこれまで3歳未満の子供を持つ従業員に対し、一定の短時間勤務や育児費用の援助など、7項目のうち1つ以上を実施していればよかった。しかし、法改正により、希望者に対しては1日6時間以内の短時間勤務と残業免除の2項目の導入が義務づけられる。「産休切り」など悪質なケースは企業名を公表することもある。


 すでに短時間勤務制度を導入している百貨店の高島屋。横浜店広報担当の横田未央子さん(41)は1日5時間の勤務で子育てと仕事を両立させる。


 今年2月に約2年の育休から復帰。朝は会社員の夫と交代で長女(2)を保育園に送る。夕方は同僚より約3時間早く仕事を切り上げ、家事をこなす。


 横田さんは「すでに多くの女性従業員が制度を利用しており、安心して出産に踏み切れた」と話す。


 ■意識変革も必要


 シフト制の勤務が多い百貨店では多くの従業員の要望に応える短時間勤務の導入は難しいとされてきた。しかし、高島屋では現行の育児・介護休業法が施行された3年から短時間勤務制度を導入した。優秀な人材を育成しても、結婚を機に退職する女性従業員が後を絶たなかったためだ。


 制度導入後、10%以上だった女性の離職率は18年で2%にまで激減した。


 しかし、高島屋のような企業は少ないのが実態だ。従業員約50人の中部地方にある健康器具メーカー。制度を導入しているのに、最近、営業担当の女性2人が妊娠を機に退職した。


 「経営的にも人員にも余裕がないうちのような中小企業では、同僚に遠慮して休みを言い出せない女性従業員が多い。法律を改正しても状況は変わらない」。同社の人事担当者(38)はこう打ち明ける。


 東京大学社会科学研究所佐藤博樹教授は「子育て支援は、企業が制度を変えただけでは進まない。子供を持つ社員を支えることの大切さを研修で伝えるなど、社員の意識を変えていく努力も必要だ」と指摘している。

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