近づかれると不快な距離
■人には誰でも侵されたくない空間がある
親しくない人に近づかれると、思わずのけぞってしまいますよね。電車のシートに座るときにも、できるかぎり他人と距離をとろうとするものです。
このように、人は無意識のうちに、他人との間に距離をとって、快適な空間を保とうします。この個人的な空間のことを「パーソナル・スペース」といいます。
相手との親密度によってこの広さは異なり、それを侵して他人が入り込むと、人は不快感を覚えるのです。
■親しくない人が近づくと不快に感じる距離って?
アメリカの文化人類学者であるエドワート・ホールは、パーソナル・スペースを4つのゾーンに大別し、それをさらに近接相と遠方相の2つに分類しました。そのなかで、親しい者同士に許される空間についてご紹介しましょう。
●密接距離---ごく親しい人に許される空間
・近接相(0〜15センチ)
抱きしめられる距離
・遠方相(15〜45センチ)
頭や腰、腿がかんたんに触れ合うことはないが、手で相手に触れるくらいの距離(親しい人同士がささやきあえる)
●個体距離---相手の表情が読み取れる空間
・近接相(45〜75センチ)
相手を捕まえられる距離(妻以外の女性がこの空間に入ると、違和感を感じる)
・遠方相(75〜120センチ)
両方が手を伸ばせば指先が触れあうことができる距離(個人的な話をするときによく利用される)
上記の空間のなかに、あまり親しくない人が入ってくると、不快感を感じることが多くなります。
ただし、このパーソナル・スペースには個人差があり、社会文化や民族によっても異なります。しかし、他人に不快感を与えない空間のとり方の目安として、覚えておくと便利です。
■男は狭すぎると怒りっぽくなる!?
心理学者の渋谷昌三は、男性は空間が狭くなると攻撃的になり、女性は協力的で友好的になる傾向があるといい、その理由を3つあげています。
1 男女のパーソナルスペースは異なり、男性のそれは女性より大きい
2 男性のほうが活動水準が高く、女性より広い空間を必要とする
3 男性同士はお互いに接近して生活するのを嫌い、女性はそれを好む傾向がある
実際、男性はごちゃごちゃと混み合った場所に入るとイライラするのに対し、女性は幼いときから同性同士で触れ合ったり、狭い空間で遊ぶのを好むケースをよくみかけます(もちろん、個人差はあります)。
しかし、女性が男性より狭い空間を嫌がらないからといって、あまり親しくないうちから接近しすぎるとやはりストレスになるので、ご注意を!
■自然に距離をおいてしまう夫婦は危機なのか?
こうしたパーソナル・スペースは、人間関係の微妙な距離感を確かめるためにも、参考になります。
たとえば、新婚のときには自然に2人並んでソファに座れたのに、数年たつと、どちらからともなく席をたってしまうことはよくあります。これは“熱愛”が冷めた結果かもしれません。
ただし、お互いに少し空間をとりたくなったからといって、それがすなわち“夫婦の危機”ではありません。親子の場合もしかり。子どもが成長とともに、親との距離をおきたがったとしても、“親子の危機”ではありません。
夫婦や親子は、長い年月をともに暮らしていく“同士”です。お互いが“自分”を確立しながら共同生活を続けていくには、それぞれに必要な空間を確保したいと思うのも、当然のことです。
むしろ、適度な空間を保つことは、長い家庭生活を円滑に続けていくための知恵でもあるのです。
参考文献:『かくれた次元』エドワート・ホール/日高敏隆 佐藤信行訳(みすず書房 1970) 『人と人との快適距離』渋谷昌三(NHKブックス 1990)
【ストレス:大美賀直子】
(niftyニュース、http://news.nifty.com/cs/item/detail/allabout-20091226-20091226-1/1.htm)