百薬の長は逆効果? 心の病気と飲酒

■「お酒で不安で取り除ける」はウソ?

 社会生活を送る上では、お酒の席を避けて通れない時があるでしょう。でもどうしても控える必要があるときは、しっかり控えたいものです。車の運転前などは絶対に飲んではいけないと分かりますが、場合によっては、控えるべきかどうか、はっきりしない時があります。例えば、心の病気になったときは?

 仮に、うつ病になってしまったとします。抗うつ薬による治療をしながら、「アルコールを一緒に飲むと、アルコールの気分を良くしたり、不安を取り除く作用と抗うつ薬の気分を改善する作用が組み合わさって、うつ病が早く治るかも……」といったような誤解をしてしまう人もいます。もしそんなことを考えてしまったとしたら、危険な勘違いです。

 うつ病になった時の飲酒は、うつ病を治りにくくしてしまいます。精神的にも薬の服用にもよくない影響があるのです。今回は心の病気と飲酒についてご紹介しましょう。

■治療効果が予測不能に? アルコールの弊害

 それぞれの薬には、最も治療効果の出る血中濃度があります。血中濃度がそれより低いと治療効果が弱く、反対に高いと、薬が効きすぎたり、副作用が強くなります。そのため、薬の血中濃度を適切なレベルに保つ事が、心の病気の治療では大切になりますが、治療中に飲酒をすると、治療薬の血中濃度を適切なレベルに保つ事が難しくなります。

 薬が血液中から取り除かれる過程では、チトクロームP450と呼ばれる肝臓の酵素群が大きく関与しています。アルコールはこれらの酵素の活性を変化させます。もしも、治療薬の代謝に関与する酵素の活性が上がった時は、薬が早く血液中から取り除かれるので、血中濃度が低下しやすくなり、薬の効き目が弱くなります。反対に、酵素の活性が下がった時は、薬がなかなか血液中から取り除かれないので、血中濃度が高くなりやすくなり、薬の効き目が強くなったり、副作用が目立つようになります。

 アルコールは脳をリラックスさせ、中枢神経を抑制します。心の病気の治療中に飲酒すると、薬の種類によりますが、治療薬の中枢神経抑制作用を増強させてしまいます。例えば、アルコールは抗うつ薬の鎮静作用を強め、眠気を強くさせる事があるので、車の運転をされる方は、特に飲酒を控えるべきです。

■治療中の飲酒は依存症のリスク

 飲酒が習慣化すると、程度の差はありますが、アルコールに対する依存が生じます。依存には精神依存と身体依存の2つがあり、アルコールに対する強い欲求が生じるとともに、今までと同じ効果を得るためには、より多くのアルコールが必要となります。

 心の病気、特に、うつ病はアルコール依存性のリスクを高めます。アルコールは平常時に適量飲むのであれば、不安感を和らげ、社交的にも会話がはずみ、気持ちの良い時間を過ごさせてくれます。しかし気持ちが落ち込んでいたり、不安感が強い時には、アルコールの効果に過剰に頼りやすくなり、アルコールが治療薬のようになってしまう事があります。しかし、以前と同じアルコールの効果を得るために、より多くのアルコールを飲む必要が生じ、依存症になってしまうリスクも高まるのです。

 それだけでなく、アルコールの常用自体がうつ病のリスクを高めます。アルコールは百薬の長と言われたりしますが、心の病気に対しては、決して、薬にはなりませんのでご用心下さい。

メンタルヘルス:中嶋泰憲】

niftyニュース、http://news.nifty.com/cs/item/detail/allabout-20100120-20100120-2/1.htm