乗車率250%「殺人ラッシュ」


 インド北部のウッタル・プラデシュ州で、混雑する列車の座席をめぐり乗客同士が口論となり、2歳の女児が走行中の列車から車外にほうり出されて死亡する事件があった。フランス通信(AFP)が伝えた。ラッシュ時の乗車率が250%を超えるインドでは、鉄道を舞台とした事件や事故が後を絶たず、平均して毎日10人以上が死亡している。鉄道事情から、著しい経済発展にインフラ整備が追いつかない現状が浮き彫りになっている。

 AFPが23日伝えたところによると、事件は、州都ラクノーから350キロ離れたラリトプル付近を走行中の列車内で起きた。死亡した女児と両親が1つの寝台を分け合っていたところ、4人組の男たちが近寄って同席を強く迫(せま)り、口論となった。

 男たちは激高してまず両親に暴力を振るい始め、突然、女児を抱え上げると、乗降口のドアを開けて外にほうり投げた。この間、ほかの乗客は誰一人、この家族と男たちとの争いに介入しなかったという。

 列車は緊急停止し、両親は急いで線路に下りて投げ出された女児のもとへ駆け戻ったが、即死だった。男たちは現場から逃走しており、警察が行方を追っている。

 インドの列車の自由席では、日常的に座席をめぐる争いが起きている。満席の車内は暑く、衛生状態も悪い。ウッタル・プラデシュ州では、過去にも走行中の列車から乗客が突き落とされる事件が度々起きている。

 人口が集中する都市部では、問題はさらに深刻だ。人口1800万の最大都市ムンバイでは連日、ニューヨークの地下鉄利用客の6倍にあたる650万人が鉄道を利用する。「激混み時間」(鉄道当局)と呼ばれる通勤通学のラッシュ時は、定員200人の車両に500人が詰め込まれる。

 警察の発表では、鉄道に関連する事件や事故で昨年は3997人が死亡、4307人が負傷した。今年は1〜4月ですでに1146人が死亡し、1395人が負傷している。毎日平均11人が死亡する計算で、「いつ命を落としてもおかしくない」状況にある。ちなみに、ニューヨーク地下鉄の年間平均死者数は8人という。

 死亡・負傷原因の多くは、混雑のため車両に乗り込めず、車両につかまった状態で無理やり乗車したものの、転落したというケース。鉄道当局は「乗客数を制限する手もあるが、どちらにしても人々は出勤しなければいけない。乗れなければ、人々は線路に座り込んで列車の運行を邪魔する」と話す。

 線路上を歩いていて列車にはねられるというケースも多い。鉄道当局はこうした違反者に罰金を科し、線路への侵入防止フェンスや陸橋の設置に加え、車両数や運行数を増やす努力もしている。

 インドでは、2015年までに世界銀行からの融資を含め20億ドル(約1700億円)が公共交通の整備に充てる計画だが、経済成長が続く中、その努力を上回るペースで乗客数は増加している。世界経済の牽引(けんいん)役を期待されるインドは、「世界一危険な鉄道」の汚名を返上できるのだろうか。

(MSN産経ニュース、http://sankei.jp.msn.com/world/asia/100825/asi1008251106003-n1.htm