日本から消えゆくもの・・・

「こんな簡単な名簿の入力、中国人に負けるわけないじゃな〜い!」

 これは、人気ドラマ「OLにっぽん」(日本テレビ系列/毎週水曜日放送)のなかで、主人公のベテランOL・島子(出演/観月ありさ)が、中国人研修生の女の子と日本語のパソコン入力でスピードを競い合う場面で口にしたセリフだ。

 ところが勝負の結果は、自信満々の島子が完敗。総務部員はリストラの対象となり、日本人ホワイトカラーの仕事の一部が中国に移管されることに――。

 こんなショッキングな話は、ドラマの中だけの話ではない。今や生産現場だけでなく、人事、総務、経理などのホワイトカラーの仕事を中国にアウトソーシングする日本企業が急増しており、2500社にも上っているのだ。

 アウトソーシング先の大半は、中国の大連。日本語学科を持つ大学が20ヵ所以上もあり、ローカルスタッフがホワイトカラー的な業務を習得しやすい環境にある。すでに多くの企業が進出しているコールセンターやソフトウェアばかりでなく、これまで「ネイティブ以外にはハードルが高い」と思われていた日本語の入力作業やメールのやりとりまで、中国へ移管され始めているのだ。

 よい例が、通信販売大手のニッセンホールディングスだ。同社はコストダウンのため、昨年から本格的に注文の処理業務を大連で始めた。今や年間注文数約1400万〜1500万件のうち約6分の1を中国で処理している。

 具体的には、関連会社を通じて、百数十人のスタッフが日本からデータで転送された注文ハガキを入力したり、コンタクトセンターにきたメールに日本語で返信したりしている。ほかにも、注文ハガキで間違いがあった顧客への電話連絡、給与計算、労務管理など、中国に移管される業務の幅は広がっている。

 驚くことに、同社はこの業務移管により、注文ハガキ処理にかかっていた人件費など経費の約50%、年間1億6000万円のコストカットを実現したという。

 ニッセンばかりでなく、中国へのアウトソーシングは、日本語のハガキ、ファクス、アンケート、年賀状、受験票の入力のほか、組版、図形、紙で保存されていたドキュメントのデジタル化移行など、様々な企業の業務で進んでいる。生保・損保業界でも動きが出始めており、住友化学では出張旅費の精算の一部を中国に移管した。

 企業にとっては、バックオフィス的な業務を海外に移管して効率化したぶん、国内でより高付加価値の業務にシフトできるというメリットがある。

「返信メールの最後に中国人担当者の名前が書いてあっても、不快感を持つお客はめったにいない。情報漏えいリスクも、国際基準に則って厳しく管理している」とニッセンは語る。「もはや国内でホワイトカラー業務を行なうメリットはない」と言わんばかりの勢いなのだ。

 だがその一方で、マニュアル化できる業務が少なくなったぶん、日本人社員は、これまでより「高付加価値な仕事」を求められることになる。

 それにより、ストレスを感じ、自分のポジションに不安を覚える社員も少なくない。技術職や営業職と異なり、能力の個人差の見極めが難しい総務などでは、 「自分だけリストラされるのでは」とおびえてうつ症状を発症する人も増えているという。今後企業側は、こういう現状も踏まえて方向性を見極めていかなくてはならない。

「電話を取って3ヵ国語で話せる社員がゴロゴロいる」(ニッセン)という状況では、単純労働では、もはや逆立ちしても中国人にはかなわない。直近では、「世界の工場」としてのポジションに陰りが見えてきた中国だが、今後は「世界のオフィス」として台頭する可能性も出てきそうだ。 

 日本語というマイナー言語の壁に守られてきた日本人ホワイトカラーにとって、まさに「厳しい時代」が訪れているのだ。

(ジャーナリスト 中島 恵)
YAHOO!JAPANニュースより)